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第51景 糀町一丁目山王祭ねり込

第51景 糀町一丁目山王祭ねり込 辰七 安政3年(1856)7月 改印
こうじまちいっちょうめ さんのうまつり ねりこみ

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江戸は京にならって、風水を考慮してデザインされたという話をよく聞くが本当にそうなのか、その一部について検証してみよう。 風水が語られる場合、四神相応など方角に関するものがメインとなるが、ここでは良く耳にする、鬼門/裏鬼門について取り上げてみたい。

鬼門とは、平たく言えば、災いが到来すると信じられてきた方向のことで、古来より丑寅(艮)(うしとら)[北東]の方角を指す。 また、到来した災いが、そのまま直進して通り抜けて行く方向を裏鬼門といい、丑寅(北東)の真逆、つまり未申(坤)(ひつじさる)[南西]の方角を指す。 そして、これら双方に人工的に何かを用意し、災い防止の任にあたらせることを、鬼門封じ/裏鬼門封じという。

桃太郎図―瀧下和之作品集より
桃太郎鬼
典型的な鬼のイメージと言えば、頭のツノとヒョウ柄のパンツである。 実は、ツノは、「丑」(うし)のツノであり、パンツは「寅」(とら)の毛皮である。 つまり、鬼は、「丑寅」(うしとら)の方角にあわせて、ワードローブをコーディネートしているというわけだ。

江戸の鬼門封じ/裏鬼門封じは、それぞれ、上野の寛永寺、芝の増上寺が担ってきたとよく言われる。 実際に江戸城の本丸付近を軸とし、磁北(注)を踏まえて測定すると、寛永寺は、確かにほぼ北東筋に位置している。 また、上野の山を京の比叡山に対して、東叡山と呼ばせたことなどからも、東叡山寛永寺が江戸の鬼門封じであるという考えには説得力がありそうだ。 一方、芝の増上寺はどうだろう。 増上寺のある場所は、古代には古墳が作られたほど崇高な場所には違いないが、方角的にも、江戸城本丸の南西筋ではなく、また風水に通じそうな説得材料も乏しい。 したがって、裏鬼門封じというには少し疑問が残るかも知れない。
 
そもそも、上野の山も、芝の丸山古墳も天然の要害である。 したがって、東叡山寛永寺が、江戸城本丸から見て、ほぼ北東筋上にあるというのが、むしろ偶然なのかも知れない。

でもやはり幕府としては、そんなアバウトな鬼門/裏鬼門封じでは飽き足らず、ちゃんとしたものを用意しようと考えたのだろう。 筆者の考察では、次に述べる、神田明神と山王社こそが、最終的に江戸幕府が腰を据えてデザインした、鬼門/裏鬼門の両翼であると考えている。

24江戸

(注)磁北とは、地図で言うところの真北ではなく、実際に方位磁石が指す北のことであり、風水24方位の基準となる。江戸城天守台から、磁北の119.968km先に日光東照宮があるが、これも当時の叡智で緻密に計算された結果、ここに造営されたのだと見るべきだろう。つまり、北極星の直下に常に家康がいるというデザインである。 

神田明神と山王社を直線で結ぶと、そのラインは江戸城天守台の上を通過する。しかも、磁北を北に定めて測定すると、そのラインは見事に北東-->南西 を結んでいることがわかる。 すなわち、江戸城の天守台から見て、丑寅の筋上に神田明神、未申の筋上に山王社が鎮座しているので、これらがそれぞれ、江戸(或いは江戸城の)鬼門/裏鬼門封じだと言える根拠となりうる。 しかも、この2社は双方共に、もとからここにあったわけではなく、わざわざ移設されてきたのものなのだ。 神田明神は、もともと江戸城大手門至近、現在の将門の首塚のあたりにあった(←関連記事参照)。また、山王社は、当初は道灌の江戸城内にあり、徳川氏の江戸城造営時に一時的に半蔵門至近の麹町に置かれていた。 その後、神田明神は、天下普請の時に、そして、山王社は、明暦の大火後の区画整理の折に、大工事を得て現在の場所に移設された。 その場所が、江戸城天守台を軸として、驚くほど正確に、鬼門/裏鬼門の方向にあることは、決して偶然ではないだろう。

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なお、山王祭は、神田祭と並ぶ天下祭りで、山車の行列が、江戸市中を廻った後、半蔵門より城内に練り込み、現在の乾門付近で将軍の上覧を得た後、竹橋門から退城するというスペシャルな祭りであった。 この絵は、まさにその行列が半蔵門より練り入る風景を描いているわけだが、広重の描いた視点が、一時的に山王社のあった麹町の旧地であるという点が興味深い。

最後に糀町とは、現在の麹町のことで、もともとは甲斐路(こうじ)町と書いたらしい。つまり、甲州街道の起点の町ということだ。至近の番町には甲州方面の守りの番につく下級武士が集められ、その初代棟梁が服部半蔵だった。甲州道の起点の城門を半蔵門というのはここから来ている。

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■関連する風景
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第53景 増上寺塔赤羽根
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